奈落の帝王
カラメールは危機を迎えている。カラメールと決して友好的とは言えない隣国ベイ・ハンの軍隊がカラメールを征服しようとしている。カラメールの軍隊は現在北部の国境へ出払っており、街の守りは手薄――いや、ガラガラと言っても過言ではなかった。
主人公がカラメールに到着したのは、ちょうどカラメールの軍隊の最後の部隊が出発した直後だった。そのとき既にカラメールは活気のかけらもなかった。街には犯罪が横行しており、治安が守られているとはお世辞にも言えない状態だったのだ。
数週間後、主人公は領主であるキャロリーナ男爵夫人直筆の召喚状を宮殿の召使いから受け取った。早速宮殿に向かうと、カラメールで最も重要な5人―キャロリーナ、マッドヘリオス、ダンヤザード、シージュ、そしてアシア・アルブドールが既に控えている拝謁の間に通された。
キャロリーナ男爵夫人は主人公に、今カラメールが瀕している危機などについて話した。
カラメールの軍隊を半分ほど呼び戻すまでに何とか持ちこたえる必要がある。これは、時間との戦いでもあるのだ。
この任務が成功すれば、今でもある程度冒険者として知られた主人公が、アランシアの伝説になるほどの名声を得られることだろう。主人公は、キャロリーナ男爵夫人への忠誠を誓うために、そして己の名声を得るためにカラメールを死守しようと手段を講じる。
FFシリーズ32巻『奈落の帝王』は、ポール・メーソンとスティーブ・ウィリアムズの共著です。
ポール・メーソンとスティーブ・ウィリアムズと言えば、テーブルトーク用シナリオ『謎かけ盗賊』の著者でもあります。そして、その謎かけ盗賊も冒険中に登場します。彼はこの冒険における重要人物で、しかも登場の仕方がまた渋いですね(笑)。
ルールについてですが、二つほど追加ルールがあります。
まずは、27巻『スターストライダー』にも出てきた
時間制限
のルールです。敵国の襲撃までに猶予が何ヶ月もあるとは到底思えません。一定時間が経過しても何の成果もなければ、カラメールは敵国の手中に落ちてしまうことでしょう。しかも、27巻と比べてより複雑になっています。27巻では、銀河大統領を助け出すまでに
時間点
が1点以上あればセーフ
でした。しかし『奈落の帝王』ではそう単純にはいかず、ある程度時間が経過すると
時間表
のマスに書いてある番号へ進まなくてはなりません。更に、時間をどれだけ浪費したかによって、冒険の後半の状況が違ってくるのです。
もう1つのルールとしては、24巻『モンスター誕生』と同じく
致命傷
(24巻『モンスター誕生』で言う
即死
ルール)が挙げられます。24巻では6分の1の確率でしたが、今回は36分の1の確率となります。おまけにファングセイン鋼の剣を使えない(失った)場合は
致命傷
のルールは適用されません。
この冒険では魔法の薬は与えられませんが、冒険中に
ツキ薬
は出て来ます。但し、それを飲むには少し危険を冒す必要がありますが…。
内容ですが、主人公やカラメールを取り巻く状況はどんどん変化して行きます。
最初は「北部に出払っているカラメールの軍隊が戻ってくるまでに持ちこたえればいい」ということでしたが、次第にそんな単純なことでは敵国の攻撃は防げないことがわかります。主人公は、その原因を探るべくカラメールを離れ調査に乗り出します。
一旦カラメールに戻ってキャロリーナに状況を報告しようとするものの、なんとキャロリーナは謎の死を遂げてしまうのです。まるで、誰かが敵国と内通しているような…。そう、この冒険でも例によって
裏切者
が出てくるのです
(3巻連続で裏切りかよ…)
。
道中で得た情報を元に、魔法使いエンシメシスを探す旅に出発します。そして、敵国の軍隊の指揮者の正体が、奈落の帝王バイソスであることが判明します。主人公は、カラメールを脅かす元凶バイソスを討伐するために、アランシアから奈落の世界へと旅立ちます。そして、行き着いた先は…ということになります。これは、9巻『雪の魔女の洞窟』にも当てはまります。当初予想していた任務の達成とはかけ離れた結末となるのです。
この冒険の優れている点は、何と言ってもそのストーリー性とパラグラフ構造ですね。
要所要所で手に入れるべき手がかりがあり、それを手に入れてまた別の手がかりを得ます。それに連れて物語の謎の部分が明らかになっていくというものです。この本のタイトルがなぜ『奈落の帝王』かは最初わからなかったものの、次第にその全貌が判明するというわけです。
パラグラフ構造も、一部『モンスター誕生』と共通した点があります。「変幻の森」に出てくる無限ループです。
アレセアの支配している「変幻の森」は、その道順を知らない人が入ると永遠に抜け出すことができなくなるという構造です。ヒントは、道順を知っているエンシメシスの書き付けにあります。「変幻の森」に出てくる3つの遭遇やそれに付随するパラグラフ・ジャンプはなかなかのアイデアです。
バイソスの支配している奈落へは、「変幻の森」から直通で行くこともできますが、これは無論正しいルートではありません。重要なアイテムを失いますし、重要な手がかりが足りないまま突入することになります。こういうチェックポイントもきちんと設けてあるのがすごいですね。
こうしてみると、32巻『奈落の帝王』は凝りに凝ったパラグラフ構造とそれに沿ったストーリー性が強みだと思います。インチキをすると、何の脈絡もなくいきなり「身に覚えのない名前」が出て来たりして、結局は全てが明らかにはなりません。ですから、「真の道」を通らないと話の内容すら全部つかめない、ということにもなります。『奈落の帝王』は、ストーリー的にもパラグラフ構造的にも優れた作品と言ってよいと思います。
それにしても、「背景」の“忠誠”や276番に出てくる“臣民”という言葉は、やはりイギリス人の作品という気がしますね。
2005/07/09
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