悪霊の洞窟


 ゴラク王国の摂政ライダーマーク卿は、大魔法使いアストラガルを召還した。ゴラク王国に起きた急激な変動の調査を依頼するためだった。
 アストラガルは、早速“ゴラク年代記”を調べ始めた。そして《真の盾》に関する記述を読んで「まさか!」と思った。…アストラガルの悪い予想は当たっていた。ゴラク城の地下にある“封印”が破壊され、《真の盾》が跡形もなく消えているではないか。恐らく、何者かが“封印”を破壊してオルガズの悪霊とクッダムを解き放ったのだろう。《真の盾》が破壊されることは、ゴラク王国が永遠にオルガズの支配下におかれることを意味する。
 「偉大なるタンクレッド」の末裔だけがクッダム、そしてオルガズを倒すことが出来るのだ。アストラガルの“バアリイヤの水晶玉”は、タンクレッド王の末裔を映し出した。水晶玉に映った人物は、ウサギ皮剥ぎ職人の第3見習いとしてゴラク城の厨房で働いていた。その人物こそが主人公である。
 主人公は血まみれの手のままアストラガルに宝物庫へ連行され、そこで《光輝く剣》を受け取った。そしてゴラク王国の未来は主人公の手にかかっていることをアストラガルから知らされたのだった。また、アストラガルはゴラク城の“封印”を破壊して《真の盾》を奪い去った裏切者についても説明した。その裏切者は、恐らく主人公がオルガズを倒して《真の盾》を手にし、ゴラク王国に戻って来たときを狙って暗殺を実行することだろう。ゴラク王国の未来のためにも、そして自分自身のためにも《真の盾》を奪回し、なおかつゴラク王国の裏切者を突き止める必要がある!
 出発前、主人公は一匹のメス猫をアストラガルから手渡される。『自慢たらたらのタバシャ』という猫神らしい。タバシャの力は9回まで借りることが出来るとのことだった。だが、タバシャが心強い味方であったとしても、この冒険が危険に満ちたものであることは間違いないだろう。
 意を決して、主人公はゴラク城の地下に出来た割れ目の奥へと進んで行く…。

 FFシリーズ30巻『悪霊の洞窟』は、27巻『スターストライダー』と同じくルーク・シャープの作品です。前作『スターストライダー』はSFでしたが、今回はタイタン世界での冒険です。
 27巻とこの作品を見比べてみると、ルーク・シャープならではの書き方のクセがいくつか見当たると思います。  こうして整理してみると、良くも悪くも共通点があります。同一人物の作品という何よりの証拠だと思います。

 ルールにも新しい趣向があります。
 まずは、普通の戦闘の他に一撃戦闘という別の戦闘があります。技術点の高低に関係なく一撃で勝負が着くものですが、これは大失敗だと思います。なぜなら、一撃戦闘で生き残れる確率は2分の1で、敵が増えれば単純にその確率は半々になっていきます。例えば一撃戦闘を4回行うとしたら生き残れる確率はわずか16分の1です。6回も行なうとしたら64分の1、これは21巻『迷宮探険競技』の42倍という倍率よりも厳しい関門になります。ですから、この一撃戦闘は、他に戦う仲間のいない主人公としては避けたいものです。しかし、この一撃戦闘をしなくてはならない場面に必ずぶつかるのです。これも、意味もなく死にやすい原因の1つになっています。これについては後でまた述べます。
 次は、燃料というルールです。火を熾(おこ)せるなら熾した方が良い場面もあることでしょう。普通に食糧を食べただけでも体力点は4点回復しますが、燃料で調理すれば更に2点回復できます。燃料が多ければそれに越したことがないように思えますが、燃料が多いと荷物がかさばる(329)という視点もなかなか鋭いものです。冒険中「朽ちずの枝」(278)を手に入れることができれば燃料の心配はなくなります。
 そして、今回主人公の強力な味方として『自慢たらたらのタバシャ』というメス猫が登場します。特に力を借りていなくても、色々気を利かせて食糧を調達してくれたり進み道を指し示したりしてくれます。魔法の薬こそありませんが、タバシャが十分その代役を果たしてなお余りあると思います。

 冒険の内容についてですが、27巻『スターストライダー』と同じく今回も暗号数字や記号などがたくさん出て来ます。暗号数字は二進法の考え方なので、これに慣れていない人には少し難しいかも知れませんが、この際ですから二進法という数学の分野を少し知っておくのも悪くはないでしょう。
 また「感覚戦闘」の技能も、生来盲目であるガッドン人ならではの特技ですね。現代でも目の見えないマッサージ師や三味線演奏家の方が優れた技術を持っているのも、他の感覚が普段から鍛えられているからだと思います。
 ミノサドルの洞窟にある《心の炎》で《光輝く剣》を鍛えるという設定もよかったのですが、同時にこれまで苦労してクッダムを倒した努力が報われなくなるのも確かです。尤も逆の言い方をすれば、最も楽なルートは「道中クッダムには全く会わず、《心の炎》で《光輝く剣》を鍛えて、最後にオルガズを1回だけ倒す」ということになります。もしかすると、このルートこそがルーク・シャープの意図する“真の道”なのかも知れませんね。

 しかし、これだけの発想にも関わらず、この作品はあまり高く評価されていない気もします。理由は単純で、デッドエンドが多すぎるからです。
 23巻『仮面の破壊者』でもそうだったのですが、意味もなくいきなりデッドエンドになるのは不愉快なだけです。事前に得られる手がかりに沿った道をたどらなかったからデッドエンドというのならまだわかりますが、この冒険はいきなり「この道はいきなり途絶え、奈落の底へ落ちて行った」というデッドエンドが多いのです。「ふざけるな!」と憤りを感じた方もいらっしゃることでしょう。特にオルガズの塔ではそれが顕著に現れています。
 また、1項目進む度に生死に関わるサイコロ判定があると、次第にウンザリしてきます。特に、言葉は変えているが実質上は前と全く同じ判定内容では当然飽きが来ます。一番多かったのは「サイコロ1個を2回振って2回とも同じ目が出たらデッドエンド」という類のものです。「またか…」と思った方も多いと思います。しかも、「これをあと2回繰り返せ」などと言われた日には、腹立たしくてこの本に火を付けたい誘惑にかられるかも知れません。技術点体力点の判定、そしてタバシャの力を借りて運点を回復させても到底追いつかないくらいある運だめしは苛立ちが募るばかりです。そして、前述した一撃戦闘のルールです。パラグラフ構造ではなくサイコロ判定でゲームを難しくするというのでは双六と何ら変わりはありません。
 その割りに、全てのクッダムを倒した後(385)についての手がかりが61番で入るにも関わらず、何度失敗しても構わないようになっています。これは単なる項目数の無駄使いです。こんなところに手間をかけるくらいならば、もう少し他のところでバランスを考えて欲しかったところです。
 こういった面から見ると『悪霊の洞窟』は些か勇み足の部分も多いと思います。やはり27巻『スターストライダー』の方が評価が高いと思います。

 最後の裏切者については、途中でヒントが隠されています。しかし、最後の238番は人相で裏切者がすぐに分かりました。冒険の途中で判明しなくてもわかります(笑)。何しろ、そいつの人相は私の中高時代の中で好感が持てなかった奴に似ているからです(笑)。あるいはバック・トゥ・ザ・フューチャーに出てくる1955年のビフにも似ています(えっ、そう思うのは私だけ?)。裏切者の人相というのは共通しているのかも知れませんね(?)。
 ところで、400番についた主人公は王国の統治者となるわけですが、ウサギ皮剥ぎ職人の修業はまだ終わってはいません。これからどうするのでしょうか。私だったら、師匠にゴラク王国の新たの統治者ということが知られていなければ、一人前の職人になるまではライダーマークに王国の統治を代理してもらい、忍びで師匠の元に通います。ですが、もし私の身元が師匠にばれていたら二度とそれまでの態度はとってもらえないでしょうから、そのときは諦めます。こうしてみると、毎回家臣の目をかいくぐって諸国を旅する水戸黄門がいかに忍びの達人かがわかりますね(笑)。

〜早く一人前のウサギ皮剥ぎ職人になれますように〜 ← 400番に着いた主人公の「七夕の願い」より(笑)

2005/07/07


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