甦る妖術使い


 チャリスは、シルバートンの町へ向かって旅する商人にとって最初の休息地である。同時に、アランシア一騒々しく活気に満ちた町でもある。
 しかし、この三週間チャリスの上空は暗く、何か不気味な雰囲気を醸し出していた。そして昨日、月岩山地に異様な亀裂が生じておりその裂け目周辺の植物という植物は皆枯れ果てているとの情報が1人のエルフから伝えられた。月岩山地で何か不吉なことが起きているらしい。
 すぐさまこの情報を親友ヤズトロモに伝えようと、主人公はダークウッドの南の塔に走っていった。強大な魔力を持つヤズトロモだったが、しかしその知らせを聞いたときには震えが止まらなかった。そして、ヤズトロモは「甦る妖術使いラザック」の伝説を語り始めた。
 ラザックは、百年前アランシアを恐怖のどん底に陥れた邪悪な妖術使いである。ラザックは、疫病や災害をアランシア各地に振りまくことで各領地を手中に収めて行った。数多くの勇敢な戦士がラザックに立ち向い、そして死んで行った。しかし、ついにクールという勇者がラザックを倒すことに成功したのだ。クールがラザックを倒すのに使用したその剣こそ、元はラザックの所有する剣だったのだ。クールは運良く――あるいは運悪く――ラザックの剣を手に入れた。そして、クールはラザックを倒すことに成功したが、ラザックの死に際の呪いによりクールは骸骨として永遠に残り、ラザックの剣を永久に外せないようにしたのである。そのときラザックは善良なる魔法使いによって封印されたのだが、どうやらどこかの愚かな墓荒らしが偶然ラザックの封印を解いてしまったと思われる。このままでは、アランシアはラザックの手中に落ちてしまう。一刻も早くラザックを倒さなくてはならない。そして、そのためにはまず月岩山地の湖に骸骨として今も存在しているクールからラザックの剣を取ってこなくてはならない。
 しかしながら、ラザックはあのヤズトロモですら恐れる妖術使いだ。一瞬たりとも油断は出来ないだろう…。

 FFシリーズ26巻『甦る妖術使い』は、FFシリーズでのイアン・リビングストン最後の作品です(少なくとも翻訳されている作品の中では)。チャリスやシルバートン、逆風平原、トロール牙峠、クモの森など、24巻『モンスター誕生』にも登場する地名が登場します。
 そして、イアン・リビングストンの世界に出てくる魔術師ヤズトロモがまたまた登場します。今回は、主人公とヤズトロモが親友という間柄です。
 巻を追ってみると、主人公とヤズトロモそしてストーンブリッジとの関係はより親密になって行きます。3巻『運命の森』では、主人公はストーンブリッジのハンマーを取り戻してからストーンブリッジの村に入ります。ヤズトロモともまだそれほど親しくはありません。それが14巻『恐怖の神殿』になると、3巻の功績でストーンブリッジのジリブラン王をはじめとするドワーフたちとは馴染みの間柄になっています。今度はヤズトロモから魔法の術を教えてもらえます。そして、今回の『甦る妖術使い』では、主人公とヤズトロモの間柄となっているわけです。こういう巻の追い方も結構楽しいと思います。
 今回の冒険は、大まかに分けると4部構成になっています。
 まずは、クールの骸骨が今も握りしめているというラザックの剣を取りに、月岩山地の湖に赴きます。しかも、最初の分かれ道の時点でクリアに必要なアイテムが入るか入らないかが決まるのです。最初から油断は出来ません。そして、ラザックの剣を手に入れる(339)までが第一部です。
 第二部は再びヤズトロモの塔に戻るところからヤズトロモに再会するまでですが、いきなりケンタウルスという邪魔者に襲われます。本当にこいつは邪魔者です。そして、エルフのシャムという心強い仲間が出来ます。自分の素性は正直に、そして他人の話には耳を傾けた方が賢明です。
 ヤズトロモと再会する(278)と第三部です。ラザックを真に滅ぼすにはガーガンティスの角が必要だとヤズトロモから聞かせられます。そこで、シャムと共にガーガンティスを倒す旅に出発します。その途中、ラザックの父タマルの墓を探してストーンブリッジへ行けとヤズトロモに命じられます。途中の経路によっては、3巻『運命の森』の340番に出てきたドワーフの出身地である、ストーンブリッジと敵対関係のマイルウォーター(ミレウォーター)の村が出てきます。そして、ヤズトロモが言っていたドワーフのボーリーと出会うわけです。そして、ボーリーの発明品である熱気球で空の旅へ出発します。それにしても、278番でヤズトロモが「我々の友人ラザック」と言っているあたり、ひねりが効いていますねえ(笑)。
 そして、ガーガンティスの角を手に入れて洞窟を脱出した(279)らいよいよ最後の第四部です。「友人」ラザックを殺しに、そのままシャムとボーリーと共にラザックの潜む裂け目へと向かいます。ラザックのいる納骨堂の入口である雄山羊の頭を持つ魔人の形に彫った石の椅子(199)からは、なんと12もの関門を通過しなくてはなりません。1つでも欠格条件があると、その時点でデッドエンドとなります。この部分ですが、最後まで体力点が6点以上ないとクリアできないというのは苦しい気がします。せめて、最後くらいは体力点1の状態でのクリアもありにして欲しかったところです。
 26巻『甦る妖術使い』は、確かに条件が1つでも揃わない(「真の道」を全部通っていない)とデッドエンドになりますが、その代わり「真の道」を全部通っていればクリアできるという、比較的単純なつくりになっています。…あとは、技術点の問題でしょうか。ラザックの技術点12というのはあまりにも高すぎる気がします。しかも、こっちの体力点は実質上最大でも4点にしかなり得ません。戦闘時の運だめしは、この時こそ積極的に行うべきです。対等(主人公の原技術点が12)でも、サイコロ運の悪い人はクリアできないことでしょう(それはこの冒険に限ったことではありませんが)。
 この『甦る妖術使い』で、私が個人的に気に入っている表現としては98番の「ネズミの骸骨」がガーガンティスに効くかどうかの試みです。
 〜アランシアにあるものは、魔法の力を持っているものもあれば、ただのものであることもある。それにしても、もし巨大なガーガンティスがほんな小さなネズミの骸骨で倒されるとしたら、やはりそれは不思議なことであるにはちがいない。君はそうなることを望みながら、巨大な獣にその骸骨を投げつける。しかし、それは獣の足に当たって跳ね返り、そのままぽとりとぬかるみに落ちてしまう。〜
 しかし、ネズミの骸骨でガーガンティスを倒すことが出来たら、それこそ本当にアランシアの伝説になってしまうことでしょう…。

 ところで、Wizradry外伝に出てくる魔術系呪文“ラザリク”(LAZARIK)を見て、この冒険の宿敵ラザックを思い出したのは私だけでしょうか(笑)?

2005/07/02


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