迷宮探険競技


 ある日、主人公はポートブラックサンドから小舟に乗って、岸沿いに南下してオイスター・ベイに向かっていた。しかし、運悪くガレー(奴隷)船に遭遇してしまったのだ。ガレー船が主人公の舟に体当たりをし、小舟はあっという間に木端微塵に砕け散ってしまった。幸い主人公は小舟が破壊される前に海に飛び込んでいたが、ガレー船から投げ下ろされたロープをつかむより他に方法はなかった…。
 この日以来、主人公は鎖につながれてガレー船の奴隷となった。そして、毎日目的地も分からぬまま船を漕がせられた。その労役は過酷極まりないものだったが、この労役とてこれから待ち受ける運命に比べたら限りなく楽な作業であった…。
 行き着いた先は、ブラッド・アイランドと呼ばれる死の円形闘技場だった。ここに着いた奴隷は、主人公も含めて全部で42人いた。主人公達42人の奴隷は、カーナス卿の手下から恐ろしい運命を聞かせられる。
 今や、主人公達はカーナス卿の奴隷で、明日からカーナス卿の課す、残忍無比な“死のゲーム”に挑むことになる。主人公達42人のうち、生き残れる者はたったの1人――その他41人の奴隷に待ち受けているのは死のみだ。そして、その勝ち残った1人が、カーナス卿の弟であるサカムビット公爵が年に一度ファングの街で開催する『迷宮探険競技』に、カーナス卿の名代として参加することになる。
 『迷宮探険競技』と言えば、生きて出られるのはせいぜい1人だけというあの悪名高い死のワナの地下迷宮だ。昨年やっと勝利者が出たが、それまでは誰一人として生きて出ることはできなかったと言われている。奴隷の誰もが死のワナの地下迷宮の難しさや恐ろしさを知っていた。
 主人公達を待ち受けている運命は過酷なものだった。
 生き残るためには、まずカーナス卿の考案する“死のゲーム”に最後まで勝ち残らなくてはならない。そして、そのゲームに最後まで勝ち残ったとしても、次は、死のワナの地下迷宮に放り込まれる運命が待っているのだ……。

 FFシリーズ21巻目の『迷宮探険競技』は、6巻『死のワナの地下迷宮』に続くファングの死のワナの地下迷宮シリーズ第二弾です。
 しかし、「21巻『迷宮探険競技』は6巻『死のワナの地下迷宮』の続編だろう」というそんな単純な作品ではありません。
 前回の6巻では、主人公は自ら進んで(自由に)参加しました。しかし、今回は奴隷として(強制的に)参加させられることになります。しかも、そのためにはまず42倍という高倍率を勝ち残らなくてはなりません。ここがまず違うところです。
 そして、迷宮の方も6巻より難易度は増しています。というのも、6巻にはなかったパラグラフ・ジャンプが登場して、しかもそれが謎の答えとして出てきてその謎を解かないと先へ進めない構造になっているからです。また、今回の死のワナの地下迷宮も6巻と同じく、途中で手に入れたアイテムをどこかで使うという場面は出てきますが、6巻とは違い途中で置き去りにしないといけないアイテムがあります。つまり、「このアイテムはここで使うために配置されたんだな。」という推理力と、アイテムを諦める(捨て去る)決断力が要求されるのです。
 こういった点から見ると、21巻『迷宮探険競技』は6巻に比べてパラグラフ構成そのものが複雑になっていると思います。
 ストーリー的にも、6巻と比較できます。
 6巻から一年経過したのが21巻です。この一年間、サカムビット公爵は「死のワナの地下迷宮」を何者か(6巻『死のワナの地下迷宮』の400番到達者)に脱出されて、自分の名誉をすっかり失墜してしまいました。正規の手段で脱出された以上、死のワナの地下迷宮の秘密が勝利者の口から漏れたとしても仕方がありません。そこでサカムビット公は、今年こそは誰も脱出できないように、そして6巻400番到達者の知った地下迷宮の秘密が(古くて)役に立たないようにするために、遊園地の巨大迷路を定期的に改変する如く、死のワナの地下迷宮を徹底的に手直しを加えました。
 前回(6巻)と同じく、今回(21巻)も中間地点と最終段階にそれぞれ競技監督を配置しました。中間地点の競技監督には盲目のノイに就いてもらい、挑戦者の力と知恵と戦闘能力を試すことに、そして最終段階の競技監督は魔法使いレクサスに就いてもらって必要なアイテムが揃っているかを確かめることにしました。6巻の競技監督であるドワーフと、ノームのイグバットは6巻で死んでしまったので(但し6巻の進み方によってはドワーフが死んだとは限りませんが)、その後任にノイとレクサスが競技監督に就任したのだと思われます。6巻からのストーリーの流れを追うのも楽しいものです。
 また、6巻では過去の「迷宮探険競技失格者」が登場します。しかし、21巻では1人も登場しません。可能性があるとすれば、競技監督ノイの部下である穴居人が挙げられますが、それも定かではありません。では、彼らは一体どうなったのでしょうか。迷宮探険競技で勝者が出たので彼らにも恩赦が出たのでしょうか。それとも全面的な構造改革を行なったので彼らを外に出しても大丈夫だという判断だったのでしょうか。あるいは全員殺されたか病死したかしてしまったのでしょうか。…彼らの末路を知っているのはサカムビット公――いや、リビングストンのみぞ知るところでしょう(笑)。
 6巻と同じく、21巻『迷宮探険競技』でも一通り他の4人の挑戦者と迷宮で出会うことが出来ます。しかし、今回は読者である主人公が女性でない限りは、女性の参加者はいません。そのうち、戦う羽目になる挑戦者ももちろんいます。もしかすると、彼らが一番の強敵かもしれません。
 ところで、6巻では原技術点が他の巻の冒険に比べてより重要な要素となっていました。では、21巻『迷宮探険競技』ではどうでしょう。それも調べてみることにします。この冒険に登場する技術点が10以上の敵を列挙してみましょう。(必)は、クリアするのに必要な戦いであることを表します。
遭遇番号名前技術点体力点備考
29(必)骨悪魔108メダルを付けていないと3分の1の確率でデッドエンドとなる。
61(必)南方人1010彼に勝てば、死のワナの地下迷宮へ参加する権利を獲得できる。
63(必)骨悪魔108メダルを付けていても骨悪魔は強い。
80死霊の女王9(後述)9この戦闘では主人公の技術点が3点引きになるので、実質技術点12の敵と戦うことになる。
113(必)東洋人108衛兵の冗談(?)を真に受けて襲い掛かってくる同房の奴隷。
127(必)火炎魔人1010火の小鬼が変身した敵。炎や鞭の攻撃があるので厄介な敵である。
188(必)カーナス卿1010南方人の最期の言葉を思い出して復讐を果たす。
211(必)東洋の武将109今回の「迷宮探険競技」の挑戦者の1人。負傷しているのにも関わらず強い。
219(必)コールドクロー1011この戦闘では主人公の技術点が1点引きになるので、実質技術点11の敵と戦うことになる。
247(必)カオスの王者1112今回の「迷宮探険競技」の挑戦者の1人。ものすごく強い。
259ゾロア4匹9〜1010〜11笛を吹いてしまったが故に要らぬ戦闘を強いられることもある。
340ゾロア1011この戦闘では主人公の技術点が1点引きになるので、実質技術点11の敵と戦うことになる。
383(必)カオスの王者1110短剣で負傷させて体力点2を減らせたが、それでも強い。
 上の一覧からしても、6巻と同じくこの冒険でも主人公の技術点が10点以上あった方が好ましいでしょう。しかし、今回は最初に東洋人南方人という2人の強敵がいます。ですから、最初の技術点を決める際に原技術点が7でもカーナス卿の名代となれたのなら、それだけサイコロ運が良かったということでそのまま続行しても構わないと思います(最初のサイコロ運は悪かったのですが)。
 それにしても、この本は翻訳に問題点があります。
 重要なアイテムは表現を統一して欲しかったところです。「黄金の指輪」と「金の指輪」では、人によっては別のアイテムと誤解する人もいると思います。例えば、金の指輪が「白」金の指輪だったらどうするのでしょうか。黄金の指輪を何個集めるかがこの冒険の重要な鍵になっている以上、表現の統一性を念頭に置いて翻訳するのは当然です。恐らくこの本の翻訳者は実際に自分でプレイしなかったのではないでしょうか。もしも自分でプレイしていたら「黄金」と「金」は統一した方が良いと気づくはずです。こういうところでも「完璧な翻訳は存在しない」ことの証明になっていると思います。
 ところで、6巻と同じ疑問なのですが、「死のワナの地下迷宮準備委員会(仮称)」の委員達は、普段何の仕事をしているのでしょうか。今回は6巻と違って、「失格者は処刑する」傾向にあるようです(せいぜい主人公が殺した穴居人の後釜になる程度)。
 ひょっとすると、ノイとレクサスでさえ地上に出ることを禁じられていたりして…。

 しかし、この冒険で一番許せないのは何と言ってもガレー船のバーテラです。元はと言えば、主人公が「迷宮探険競技」に参加することになったのは、マンゴ達の住んでいるオイスターベイに行く途中にガレー船に襲われたからでした。私だったら、賞金の金貨二万枚で兵士を大勢雇った後バーテラに「お礼参り」に行きます。尤も、バーテラもいつか19巻のブラッドアックスの如く部下に殺される運命にあるのでしょうが。

2005/06/21


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