深海の悪魔


 命知らずの船乗り主人公は、一等航海士として商船サンフィッシュ号に乗り込んだ。そしてサンフィッシュ号がポートブラックサンドの港を出て5日経った後、海賊船トロール号に襲撃された。
 主人公は、サンフィッシュ号最後の生き残りとして必死に戦ったが、いかんせん数が多すぎた。後頭部に一撃を食らい、主人公は意識を失った。
 主人公は、トロール号の船長ブラッドアックスから剣を返してもらったばかりか、わざわざ重い食糧までプレゼントされた。そして、後ろ手に縛られたまま海に突き落とされた!浮かぼうにも、食糧の重さで浮かび上がることができない。主人公は、海底にと引き込まれていく…。
 沈んだ先は、かつて地上の都市だった残骸だった。主人公が落ちた中庭と思われる場所は、そこ全体が魔方陣になっていた。そして、海底に足がついた瞬間、まばゆい光が主人公の体を包み込んだ。この魔方陣の魔力のお陰で、主人公は海底でも呼吸が出来るようになった。
 どうにか主人公は、近くにあった珊瑚の角で縛めを解くことに成功する。
 仲間の仇討ちのためにも、自分の腹の虫をおさめるためにも、何としてでもトロール号の連中に復讐をしたい。その手段を求め、主人公は海底都市を探険する…。

 FFシリーズ19巻『深海の悪魔』は、一方通行型の冒険です。著者はスティーブ・ジャクソンです。では、イギリスかアメリカのどちらのジャクソンでしょうか。―― もうおわかりですね。
 正解はジャクソンです。その理由は400番が“HAPPY END”とはなっていないからです。
 しかし、これが「ジャクソンの作品です」と言われても何ら違和感がないくらい、この作品もまたバランスが取れている作品だと思います。
 この冒険の舞台は16巻『海賊船バンシー号』と同じく海洋です。しかし、16巻とはまた違った雰囲気が味わえます。その大きな理由としては、16巻の舞台の“真下”に位置することが挙げられるでしょう。
 16巻では「海上」が冒険の舞台でした。しかし、19巻『深海の悪魔』は海底が舞台です。海底が舞台だけに、コウモリとかライオンオーガや大クモガニなど、通常地上で出くわすはずの敵も全て海底の敵らしくなっています。
 また、『深海の悪魔』は『海賊船バンシー号』と比べると、色々な部分で対照的なところがあります。
 まず、冒険の目的が19巻では16巻の「仇討ち」とも言えるでしょう。
 バンシー号とトロール号、名前こそ違えども同じ海賊船です。ひょっとすると、19巻の主人公は16巻で襲撃した商船の乗組員の中の1人だったかもしれません。バンシー号の船長が、19巻の主人公を後ろ手に縛って海に突き落とすといった手の込んだことはせずとも、それと似通ったことはしたかも知れません。こういう想像をするのも結構楽しいものです。
 それから、16巻ではいかなる手段を用いても金貨や財宝を1枚でも多く集めるという、徹底した<悪>の冒険でした。16巻で慈悲や慈善(ボランティア)の心を出しても金銭面で得をしなければ何の評価にもなりません。しかし『深海の悪魔』では、1人でその残忍無比な海賊船に復讐しようとするのですから、誰かあるいは何かの助けが必要です。その助けを得るためには、まずこちらから何かの協力の意思を出す必要があるわけです。そして、そのお礼として海賊どもを倒す手助けをしてもらうということです。
 16巻では、部下への不忠を除いては道理に背く行為も許されます。しかし、19巻でそのような行為をすると16巻のときに述べた「著者罰」も下りますし、誰からも助けを得られず、結局海賊への復讐は諦めるより他なくなるのです。実際、この冒険には何の見返りも期待せずに相手を助けた方が、最初に何かを要求したときよりも結果的に有利な援助を得られるという場合が少なくありません。押してばかりいるよりも、「引き」で相手を文字通り引き付けるという行為が重要になります。
 そして、この冒険も『サソリ沼の迷路』と同じく「マルチ・エンディング」です。今回は、冒険の成功度(達成度)によって分けられています。大まかに分けると、下の表のようになるでしょうか。尚、これは私の判断で作成した採点表です。

※ ネタバレ対策のため、一部隠しています。ご自分の着いた番号の右側のみを反転してください。
番号評点ランク総評
2725点海賊に復讐できなかったが、命だけは助かる。
10530点海賊に復讐できなかったが、命だけは助かり、なおかつポートブラックサンドまで無事に帰り着く。
17730点海賊に復讐できなかったが、命だけは助かり、なおかつポートブラックサンドまで無事に帰り着く。
18975点海賊どもに復讐を果たした上、そこそこの宝(革袋いっぱいの財宝)を持ち帰る。
236100点最高級海賊どもに復讐を果たした上、トロール号の新しい船長になる。これが最高のエンディング。
23850点財宝こそ手に入れられなかったが、海賊どもに復讐だけは果たす。
26225点海賊に復讐できなかったが、命だけは助かる。
27770点海賊どもに復讐を果たした上、そこそこの宝(ひとつかみの金貨)を持ち帰る。
37730点海賊に復讐できなかったが、命だけは助かり、なおかつポートブラックサンドまで無事に帰り着く。

 ところで、16巻と19巻を冒険していて思ったことがあります。
 16巻『海賊船バンシー号』の枠内だけを見れば、確かに金貨や財宝を掠奪すればするほど「良い」という冒険です。しかし、当然ながら襲った商船や都市の生き残りからは計り知れない程の恨みを買うわけです。ひょっとすると、『海賊船バンシー号』で“海の王者”となったバンシー号の船長も、『深海の悪魔』の236番の如く、いつか部下達に殺される運命なのでしょうか。まあ、それが<悪>の親玉の宿命と言えば宿命でしょうが。

 それにしても、黒い真珠を活用する魔法の呪文(derdnuH enO)の翻訳――よく日本語向けに翻訳したものだと、感心してしまいます(笑)。

2005/06/16


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