死神の首飾り


 主人公は、意識を取り戻した。「ここはどこなんだろう。」
 そう思って辺りを見回すと、そこは全くの別世界だった。そういえば、今着ている服装も全くの異世界のものだ。
 …ここは、オーブの世界の神々の園。今、オーブの世界では秩序が崩れようとしている。その秩序を取り戻すために、オーブの神々は主人公をオーブの世界に呼び寄せた。「ぜひともオーブの世界の秩序を取り戻してくれ」と、主人公はオーブの神々に依頼される。
 そして、主人公はあまり事情が飲み込めぬまま、オーブの世界の地上へ下ろされてしまう…。
 下ろされた先でシラカブ十字軍の4人組と出会い、その中の僧侶から死神の首飾りと“姿なき王”そして死神の使徒について聞かせられる。死神の首飾りが魔力を発揮すると、死神がオーブの世界に来てしまう。そうなったら最期、オーブの世界は破壊と混沌の世界になってしまう。十字軍はやっとの思いでこの死神の首飾りを“姿なき王”から奪った。死神の首飾りを破壊することは出来ないが、代わりに主人公が死神の首飾りを地球まで持ち逃げしてくれれば、死神の首飾りは力を失い、オーブの世界は再び秩序を取り戻すことが出来る。今回の主人公の目的は、死神の首飾りを無事に地球まで“お持ち帰り”することである。だが、死神の使徒どもも黙って見ているとは思えない。どうにか地球へ戻る算段を講じる必要があろう。  オーブの世界の秩序のため、そして自分が地球に帰るため、主人公は異世界の冒険へと旅立つ…。

 これまでのFFシリーズは、専ら英ジャクソン&リビングストンの作品でした(8巻だけは米ジャクソンですが、「スティーブ・ジャクソン」と一括りにすると「ジャクソン&リビングストンの独擅場」となります)。
 しかし、この11巻目からは、続々とFFシリーズの新人作家が登場します。
 11巻目の作品は『死神の首飾り』で、ジャミー・トムソン氏とマーク・スミス氏の共著です。
 オーブという別世界の神々に直接呼ばれたという設定だけあって、神がかり的な出来事がかなり頻繁に起こります。ドルイドの神ウォードマン、狂気と混乱の神アナーキル、母なる神、まやかしの神バガール、フェル=キリンラの寺院、運命の神、赤カマキリ教など、宗教的な言葉もよく出てきます。神と神同士ですから、当然宗派間での対立も起こるわけです。このあたりを考慮すると、オーブの世界は<善><中立><悪>の神の混在で、逆に秩序を保っているのかも知れませんね。
 この冒険の最大の特徴は「セーブポイント」が設けられているところです。
 背景にもあったように、死神もしくはその宗派の関係者にかかって殺される(あるいは戦闘で死ぬ)以外の理由で主人公が死んだら、オーブの神々に救ってもらえます。ある一定の場所からやり直しが出来るのです。『ソーサリー』のZEDみたいに、過去へ迷い込んでまだ持っていないはずのアイテムを既に持っているという矛盾を避ける処理もきちんとされています。
 また、この冒険は、常に最後まで戦って勝てばいいというものでもありません。「三十六計逃げるに如かず」「負けるが勝ち」という言葉は、まさしくこの『死神の首飾り』こそ当てはまると思います。まあ、元々この冒険は「逃げ切る」ことに主眼を置いているわけですから、そういう展開になるのは自然な運びとも言えるでしょう。
 テュテフとカサンドラという高慢ちきな二人組や、額に赤いカマキリの入れ墨をした僧侶との戦闘などは、こちらが勝っても(優勢になっても)、結果的には一銭の得にもなりません。こちらが謙(へりくだ)れば、ただ体力点運点を無駄に消費するだけの戦闘を避けることができるのですが、たとえゲームブックの世界と言えども高慢な輩に謙るのが大嫌いな私は、敢えてそうしませんでした(技術点も結構高かったこともあったので)。こういう演出も、なかなかという気がします。ストーリー上での負傷を選ぶか、読者である自身への心理的な屈服に耐えるか、これはまさに究極の選択ですねえ(大袈裟すぎるか…)。
 この作品で難を言うなら、これだけの神話的世界の冒険の割にはエンディングがあっけなかった気もします。確かに、死神の首飾りを地球へ持ち帰ってオーブの世界を救ったとしても、地球でそのことを知っている人物は誰もいないのですから、こういったエンディングになるのも仕方のないことでしょうが。でも、異世界から地球への脱出劇という観点からすると、このエンディングこそ『死神の首飾り』にふさわしい気がしないでもありません。この辺は難しいところだと思います。
 せめて、この作品を翻訳された松坂健氏が翻訳中どのようなことを思われたのかを「訳者あとがき」として書いて欲しかったところです。

 〜あなたのハートには、何が残りましたか?(木村奈保子風に)〜

2005/06/01


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