火吹山の魔法使い


 よほど向こう見ずな冒険者でない限りは、火吹山のような危険極まりない地に向かう前はある程度の情報収集をするだろう。
 主人公は、火吹山に通じる地元の村で火吹山に関する様々な噂を耳にした。しかし、それらの中で確信的なものは1つもなかった。それどころか、全部事実無根かもしれない。村人達は、これまで多くの冒険者が火吹山に向かって旅をするのを見ていたが、帰って来た者はごくわずかだった。帰ってきた者は、誰ももう一度火吹山に行きたいなどとは思わなかった。
 主人公がついに火吹山へ出発する日が来た。
 出発前には、村人が総出で見送りに来た。女性達はみんな涙を流していた。もしかすると、もう主人公を見ることができないからかも知れない…。

 「ファイティング・ファンタジー」シリーズの記念すべき第一作となった「火吹山の魔法使い」。振り返ってみると、もう20年以上も前の話なんですね。そして今年、扶桑社から復刊されたことでも話題になっています。
 今更ですが、私も「ゲームブックファン」と自ら称していますので、この『火吹山の魔法使い』についての自分なりの感想を述べたいと思います。

 何と言っても、自分が本の世界に「主役」として入るのがいいですね。
 「火吹山に乗り込むのは自分なんだ」とすっかり冒険者になりきってしまうのが、このゲームブックの醍醐味だと思います。
 やはり、記念すべき第一作目というだけあって、新鮮さなどが抜群に出ていたゲームブックだと思います。
 まずは、火吹山入り口周辺(鉄格子の前まで)から始まり、やがて道が二手に分かれて更に二手に分岐します。そして、地底の川を渡り、火吹山の更に内部へと入ります。この辺りになると、敵も結構強くなっています。それから、地下の墓所(屍鬼のいるところです)を経由して「ザゴールの迷路」に突入します。戻りたくても、鉄格子が降りていて戻ることはできませんから、あとは前進しかありません。そして、ザゴールの迷路をくぐり抜けた先には龍と戦い、ついに魔法使いザゴールとの対戦です。ザゴールを倒した後の奥の部屋には大きな宝箱があります。剣でこじ開けようとすると稲妻に襲われます。この宝箱を開けるには正しい鍵を3本とも入れる必要があります。1本でも間違うと当然ながら宝箱は開きません。間違った鍵が多いほど罰則も厳しくなり、特に3本とも間違うと即座に死が訪れます。3本とも正しい鍵を鍵穴に差し込んで、初めて火吹山の魔法使いの宝を手にすることができるのです。
 火吹山の宝を手に入れた冒険者は、故郷へ凱旋するもよし、そのままザゴールの後釜(火吹山の新しい領主)になるもよし、いずれにせよハッピーエンド(クリア)ということになります。
 このファイティング・ファンタジーシリーズは、一方向にしか進めない、つまり本当に本を読み進めていく形となるものが主流です。そして真の道と呼ばれる「正解ルート」をたどっていないとクリアできないものも多いです。「火吹山の魔法使い」も例外ではなく、正しい鍵があるルートを通らないと当然ながらクリアできません。
 「火吹山の魔法使い」での「間違ったルート」というのは、実は3本しかありません。鉄格子を抜けた直後の4本の道(二手に分かれ、また二手に分かれる)のうちの3本だけです。この4本の道のうちの1本に「正しい鍵」があるため、他の3本の道は「間違ったルート」となるのです。しかし、「間違ったルート」にも結構面白い出来事などがあります。以下に例を挙げます。
  1. グレムリンをペットとして飼っている老人(84)とは、サイコロゲームを楽しめます。
  2. ゴブリン語で「…飲むな」と書かれている泉(88)は、実は回復の泉です。
  3. 呪われた青銅の兜と魔法の鉄兜(134)のある部屋があります。
  4. 大コウモリを倒した後、魔法の剣(344)を見つけられます。
 このように、ただ単純にクリアするだけでなく、他のルートをたどってみるのもまた面白いと思います。

 ところで、「火吹山」は、「ひふきさん」「ひふきざん」「ひふきやま」あるいはどう読むのでしょうか。
 私は「ひふきさん」だと思っていました。現に、社会思想社初版の25ページでは、堂々と「ひふきさん」と仮名が振られています。しかし、一説によると、正しくは「ひふきやま」だそうです。果たして、どれが正しいのでしょうか。尤も、本当に正しいのは原版の英語名なんですけどね(笑)。
 正しかろうがそうでなかろうが、私は「ひふきさん」と読んでいます…。

2005/05/10



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