追悼・伊藤清


 先日、数学者の伊藤清氏が亡くなったことが新聞記事を中心に報道された。私の専攻が数学、とりわけ確率論であるだけに、この報道は他の記事よりも目についたのだった。
 伊藤清氏といえば、「伊藤積分」や「伊藤の公式」で知られる確率微分方程式を文字通り確立した人物であるで知られる。昨今の数学界が欧米主体で動いている中で、伊藤氏の存在はまさに日本を代表する数学者であったことは間違いない。
 私が“伊藤清”の存在を知ったのは大学3年の頃である。その頃私は、確率論の基盤である集合論、測度論そしてルベーグ積分を学んでいた。そして、ルベーグ積分の様々な拡張を調べていくうちに、伊藤氏の考案した伊藤積分なるものを知ったのであった。
 当時、微分積分や線形代数の本質すらまだつかめていなかった私だったが、それでも確率論だけは自分なりに本質をつかもうとしていた。確率論は別名「ギャンブル(賭博)の学問」とも呼ばれている。賭け方全体の中でどれだけの割合で賭けに勝つか、あるいは負けるかを計算したのが確率論の始まりと言われている。ギャンブラーが正確な数学の知識を持ち合わせていたとは考えにくく、当初は確率論と微分積分をうまく結びつけることそのものに無理があるとみなされていたのかもしれない。それをうまく結びつけた伊藤清氏の功績は尋常ならざるものと称しても過言ではないだろう。
 伊藤氏の功績はフィールズ賞を受賞して然るべくものだが、しかし、当時70代の伊藤氏はフィールズ賞の対象外であった。その代わり、**ウルフ賞(数学部門)を受賞するに至った。そして、伊藤の公式は現代の金融界にとって大きな役割を担っている。
 江戸時代に活躍した有名な日本の数学者として関孝和の名があがるが、伊藤清氏は関孝和に引けをとらない、昭和時代の有名な数学者として語り継がれていくことと思う。
 ご冥福をお祈り申し上げます。

フィールズ賞
 数学者最高の名誉とされている賞。ノーベル賞には“ノーベル数学賞”というものがないが、代わりにこのフィールズ賞というものがある。但し、フィールズ賞の授賞は4年に1回(4の倍数でない西暦偶数年、例えば1990年など)であり、なおかつフィールズ賞の受賞対象年齢は40歳以下と定められている。

**ウルフ賞
 科学や芸術で優れた業績を上げた人物に与えられる賞。賞金10万米ドル。数学界の中でも名誉ある賞。

2008/11/16


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