せめてものI LOVE YOU


 今回の歌は「お気に入り」というよりはむしろ「厄払い」の意味が強いです。

 「せめてものI LOVE YOU」は、1997年に発売された谷村有美氏の「day break」というアルバムの第9曲目に収録されています。9曲の厄払い、究極の厄払い……(おあとがよろしいようで)
 聴いてみるとわかりますが、この歌の歌い手は、最初から結ばれない運命を覚悟しています。「私だけの思い込み」が先行、いや、暴走し、それに気づいたときに愕然としてしまうのです。「たった一人の特別な人」ではなく「いい人の数人のうちの一人」という状態のまま、いつか自分の思いを伝えられる日が来るまで相手のことを見守ります。「それが せめてもの I LOVE YOU」と締めくくるこの歌は、悲惨な結末を示唆しています。残酷な見解かもしれませんが、「いつか」が来るまでに歌い手が心変わりをする可能性もありますし、相手にとっての「たった一人の特別な人」を自分以外の別の人に決める可能性が圧倒的に高いのです。
 思い切って今の状態か一歩踏み出したいのですが、それが叶わない、だから今のままでいよう、そんな心の葛藤がこの歌に込められています。例えて言えば、死刑判決から逃れられないことがわかっていながら裁判を引き延ばすようなものです。破滅的な喪失を味わうよりはいくらか不満があっても現状維持をしようとする心情です。この歌は、恋愛に関しては、努力は必ずしも報われないという裏付けを示しています。逆に、初恋が成就した到達度を100としたときに、初恋が報われなかったことによって結末が100を超える可能性もある(初恋が報われたら到達度は100を超えない)わけです。命のあるうちに報われるかどうかはまた別の話ですが…。

 私の経験上、この歌には「心の死刑判決」の度合いが強く、まだ完全に成就していない人にはお勧めできません。この歌は、完全に成就した人が過去を懐かしむために聴くのが無難だと思います。この曲を聴いて破滅を招き寄せないように祈るばかりです(このような天才的に残酷な歌詞を作る谷村有美氏はやはりすごいです)。よって、前述した通り、この歌は「厄払い」という意味でここのページに記すことにします。


2017/04/15


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