プロ棋士の二歩流れ



 NHK杯の「二歩事件」は、当分は豊川六段(段位は当時、以下同様)だけかと思っていた。あの事件が全国的に放送されてしまったことにより、豊川六段に対してというよりも他の棋士に対する警告となったことは間違いないからである。
 しかし、昨年の今日、またしてもNHK杯で「二歩事件」が発生したのである。

 2005年4月24日(日)に放送されたNHK杯将棋トーナメントは、先崎学八段対五段の松尾“”の対戦だった。

 97手目、先崎八段が▲3八飛と回り、松尾にかけられていた王手飛車を回避しながらの詰めろ(以下▲3三飛成△1二玉▲3二龍△同歩▲2一銀△2二玉▲3一飛成まで、△1二玉のところで△3三同金は▲3一飛成△1二玉▲2二金(または▲2一銀)まで)をかけた。
 これで松尾玉は完全に一手一手の受けなしに追い込まれた。一方、先崎玉は▲7八金と▲8六銀が非常によく効いており詰みはない。△3六歩と打ちたいところだが、既に3一に歩を打っているためそれもできない。
 この局面では投了も止むを得ないところであろうということだった。しかし、松尾は強硬手段に出たのである――
△3六歩!
 松尾は△3六歩と打ったのである!
 その後松尾が故意に駒台に手を当てているところを見ると、どうやら「もはやこれまで」という意味合いで△3六歩と打ったらしい。何という往生際の悪さだろう。
 そして、読み上げ係が先崎八段の勝ちを宣告しても、松尾は別に動揺することなく平然とした表情のままだった。むしろ、先崎八段に対して「俺はお前なんかに投了しないぞ」とでも言いたげな目つきをしていた。
 このとき、放送部分ではカットされていたが、この対局の後先崎八段は松尾に対して「どういうつもりだ?」と言ったらしい。当然である。私が先崎八段だったとしても松尾に同じことを言うだろう。豊川六段はNHK杯の二歩反則者で、しかも「してはいけないことをしてしまった」という態度が痛いほど出ていた。だからこそ、ある意味「災い転じて福となす」状態となった。しかし、松尾の二歩は豊川六段の模倣犯としか取れず、しかも故意的なため悪評は免れまい。

 この対局をご覧になった方なら分かるだろうが、このとき松尾は投げ捨てるような手つきで△3六歩と打ったのだ。これは、豊川六段のときとは違い故意に反則をしたとしか思えない態度である。万が一故意的でないにせよ、松尾のあの態度からでは故意的と思われても仕方がない。
 この二歩は腹立たしさを感じる。その証拠に、豊川六段のときは堅陣でいくら△3七成桂で角を殺されたからと言ってもそれだけでそう簡単に攻め落とせる形ではなかった。豊川六段は、田村五段が悪手を指すのを辛抱強く待っていたものと思われる。そしてやむなく▲2九歩と打ってしまったものと思われる。田村五段に△2三歩を指差されたとき「うっかりしてた!」という表情に満ちていた。
 しかし、今思うことだが、松尾も松尾ならば解説者の渡辺明も渡辺明だ。渡辺明は21歳で竜王位に就いたこともあり、それでこの対局の解説に当たったのだろうが、まるで解説になっていない。「歩が打てないんだ」「これは投げたくなるな」など、お前の気持ちを聞いているわけではない、と言うところである。棋力は間違いなくあるが、解説者としてはまだまだ修行が必要であろう。塚田九段の解説は至って冷静沈着で、アマチュアの私でもよくわかる。塚田九段ならば、97手目の局面で△3四桂△3四銀△3六桂などではまずい理由もきちんと解説したことだろう。
 豊川六段のときは「弘法にも筆の誤り(弘法大師ほどの方でも間違えることがあるのだから、間違いがある可能性は常にある)」という「猿も木から落ちる(誰でも間違いはする)」の尊敬版だが、松尾の場合は「河童の川流れ(泳げて当然のくせに溺れるなんてこの河童は馬鹿じゃないのか)」という軽蔑版となる。しかも、松尾の名前が「歩」だから、この「二歩事件」では、即座に松尾というあだ名がついたという。結婚をきっかけに、これからは松尾“二歩”と改名して、婚姻届と一緒に改名届も出せば良かったのに。
 題して「松尾の二歩流れ」と言えよう。
**愚か者(近藤真彦)より**
 ♪ 愚か者よ おまえの犯した禁じ手見つめよ
   愚か者よ おまえを名づけた親を恨んで
   今夜は眠れよ
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2006/04/24


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